ぼくは彼の気が変わらないうちにと思い、さっそく包んでもらった。 「でも五千円か。友達と遊ぶときなんかどうすんの。金使わない」 「ぼく友達いないから。ひとりが好きだから。 ひとと遊ぶより本読んだり絵を描いたりする方が好きなんだ。でも、君は別かな」  彼ははにかむように笑った。 「そんなことよりこれ聴いてみない」  そう言うと彼はディスクオルゴールを鳴らした。どう耳を傾けてみても見た目通りの安っぽい音しかしない。 「さっきのよりかなり落ちるね」 「うん、最近作られたものだからね。いまのひとはオルゴールを純粋に音楽を聴くものとして考えてないでしょ。ぼくも音色は好きだけど音楽には興味ないし」 「音楽に興味ないのにオルゴールが好きなの」 「うん。音楽よりも奇麗な音を聴くほうが好きなんだ。風鈴や硝子を弾く音なんかも好きだよ。でも音楽には雑音が多すぎるように聞こえてしまう。昔はそうでもなかったんだけど最近は特にそうなんだ。流行歌なんてとても聴けない。でもオルゴールにはほとんど雑音がないでしょ。どんな複雑な音楽もピンを弾く透き通った音色だけで表現してるでしょ。それがいいんだ」  彼は何気なく髪をかきあげる。ぼくは袖口からのぞく彼の手首に薄い傷跡のようなものを見つけた。 「それ、どうしたの」 「え」 「手首」 「あ、これ。子供のころガラスで切ってしまって。それよりほかの見ない」  ぼくはすぐにそれを忘れてしまった。というより、彼のしぐさがとても自然だったのがそれを忘れさせたのかもしれない。  硝子戸の中から、彼は一つ一つオルゴールを取り出しはじめた。  ピアノや蓄音器の模型に仕込まれたもの、兵隊やピエロの人形に仕込まれたもの、硝子の植物や動物、建物の中に透けて見えるもの、飾りのないプラスチックケースに入ったものなど、色々な形のものがある。しかし曲は簡単なものがほとんどだった。 「でも不思議だ。まだ君のことすこししか知らないのにとてもそんな気がしない。何でも話せる気がする」 「人間関係って結構そういうとこあるんだよね。昔からずっと知ってんのに気い許せない奴もいるし。それはそれで楽しいけどさ」  彼は考え考え話しだした。 「オルゴールが好きなこともね、馬鹿にされる場合が多かったからいつも隠してたんだ。でも、君なら大丈夫、そう感じられたから」 「そうなんだ」  ぼくは自然にうなずいていた。  やっぱり彼はほかの人とは違う。彼といると自然に素直になれる。言葉づかいまで妙に優しくなってるし、ほかの仲間にこんなとこ見られたら恥ずかしすぎる。でも初めて会ったときからそうだった。なんでだろ。  ぼくはふと思い出した。 「そうだ、この前買ったのは」  言ってから少し後悔した。わずかにだが彼が嫌なことを思い出したとでもいうような顔をしたからだ。  彼はあの店で買った小さなオルゴールを持ってきた。