「これ安物でしょ。だからこういうことが起きるんだ」  彼はオルゴールをそっとぼくに手わたす。 「まわしてみて」  ぼくはオルゴールの取っ手をまわしてみた。 その音は耳もとに持っていかなければ聞こえ ないほどにか弱い。クリスマスの曲だ。 「聴いた。かして」  ぼくがわたすと、彼は机のわきの薄い金属の台の上でその小さなオルゴールの取っ手をゆっくりとまわし始めた。小さなオルゴールはその大きさにもかかわらず、メロディーを部屋中に響きわたらせた。 「へえーこんな小さいのに」 「わかったかな。響かせると音が割れてしまうんだ。澄んだ音が好きなのに、この音は濁ってる。割れた大きな音なんて」  彼はいらだちをおさえるように息をつき、疲れたような力ない笑顔でぼくを見る。 「ごめんね。君が譲ってくれたのに。本当は一番気に入ってるんだ。でも、いろいろあって。少し、過敏になってるだけなんだ」 「ああ、そんなこと。いいよ、いいよ。全然気にしてないから」 「ありがとう」  かすかな笑顔を見せて彼はオルゴールをしまい始めた。  きっと、頭のいい彼にはぼくにはわからない悩みがあるのだろう。たぶんぼくなんかじゃ力になれないようなことが。  彼が片づけ終わるのを待って、ぼくは言った。 「何悩んでるかわかんないけど、あんまり考えすぎないほうがいいよ。えーっと。そうだ、思い出した。過ぎたるは猶及ばざるが如し、とも言うしさ」 「ありがとう。気をつかってくれて」  彼の左目から涙が流れ落ちる。  あわててぼくが話しかけようとすると、彼が静かにさえぎる。 「いいんだ。気にしないで」  彼は左目をぬぐう。 「なんか、女の子みたいだ。泣いてしまったりして。元気出さなきゃ」  彼は笑った。  それを見てほっとした。 「あんな顔で泣かれたからどうしようかと思ったよ。俺がホモっ気のある奴だったらどうすんだよ。想像するだけで気持ち悪りい」 「君だったらいいよ」 「げ、俺友達やめようかな」  彼はおかしそうに笑った。