日本アニメーション版の作品もカートゥーン・ネットワークで視聴したのを皮切りに、大谷じろう氏が作画、小学館世界名作館で発売されている《十五少年漂流記》を購入し読了したところ、出来がジュール・ベルヌ氏の原作の持ち味を最大限引き出すよい仕上がりになっている。よって、数十年前に読んだ翻訳本の面白さの記憶がよみがえり、特に動画作品を紐解きたくなった。
丹念にネット検索をしていくと、日本アニメーション版の瞳の中の少年(1987)は、CS放送局 カートゥーン・ネットワークで時々放送される以外にも、平成23(2011)年2月よりDVDソフトが株式会社オレンジハーツよりバリアフリー版が発売されている。
バリアフリー映画としてDVDソフトになり、これからも児童福祉の現場、子どもの情操教育等で活用されいくほど、優秀なアニメーションの一つとなっている。原作の主題を生かした親子で見られる作品だ。
この5年前にも、原作の持ち味を十分に引き出し、冒険活劇の要素を十分に入れたアニメーションが東映アニメーション版十五少年漂流記(1982)である。
フジテレビの特別番組《日生ファミリースペシャル》で放送された。海外にもビデオソフトが輸出されているほどの作品なので、版権それとも表現上の問題かは現在のところ判然としないにせよ、同社のウェブページの作品年表にも掲載していない。当然、東映が配信する専門チャンネルでも再放送は期待が薄いかと思われる。
【写真】作品の映像から。
外国語版の吹き替え映像を入手し視聴したところ、原作のスリルの表現がよくあらわされている。最終盤の敵との戦いは良くできている。原作にもあったナイフでの格闘を映像化した部分に対して、何らかの圧力がかかったのではないかと思えてしまった。仮にそうであれば実に短絡的思考である。封印しておくのは実にもったいない。
【補遺】
・16ミリフィルム所蔵情報
1)東京都立多摩図書館
東京都内の団体のみ貸付が可能。請求番号D0687
2)社会福祉法人聴力障害者文化センター
16ミリフィルム所蔵番号 No.49
作品講評
【作品評】
作品は原作の趣旨を生かした翻案。ブリアンとドニファンの険悪が強調されている。ドニファンがモコを傷つける発言をするなど、悪びれた行動が目立つ。また気性が荒く、ゴードン、ブリアンと殴り合いのケンカを繰り広げている。ゴードンとの殴り合いのさい、拳銃を向けたほど。(下記写真)
【写真】ゴードン(中央)がブリアン(左)とドニファンのケンカを仲裁する。
食糧確保に苦労しており、冬期は飢餓に陥る寸前であった。主役はブリアン。集団の中心的役割をしていたのはゴードンである。
瞳の中の少年は明るい印象を持つに対して、この作品は対立、苦悩を前面に出している。悪者との闘い後、一致団結する。
【翻案の変更点】
1)ジャックの行動の変更
あ 漂流の原因を作った告白は、冬季に行われ、ブリアンから殴られている。それが全員に知れ渡り周囲から白眼視される。それに耐えきれず家出、あわや凍死するところだった。(下記写真)
い 島で見つけた子猿をジャックが飼いならしている。
う 大凧は悪者の位置確認のために昼間に行われ、ジャックが乗り、それを悪者が見つけ、洞窟に攻め込まれている。(下記写真)
危ない役目の志願はこれ1つのみ。原作での冬にドニファン捜索中にクマから追われる場面は省かれている。大凧に乗って監視へ集約されている。
2)登場人物の変更
瞳の中の少年と同様、エバンスが省かれている。
3)モコの投票権
大統領を決める選挙に原作と違い、投票権を持っている。ただし、ドニファンから意地悪をされている。
4)悪者との戦い
分裂したドニファンの集団と銃撃戦を展開し、ゴードン・ブリアンたちが助けに入る。ドニファン(中央)は、銃で肩を撃たれ負傷する。この時、ブリアン(左)と和解し、モコ(右)への無礼を詫びる。(下記写真)
戦いは西部劇風に仕立てられている。ドニファンが悪党に銃撃され、ブリアンたちが加わり勝利宣言をするまで約4分超の場面は、本作の見せ場である。モコとファン(犬)の活躍が戦いへの勝利の一端を担う。
本作はブリアンが豹に襲われたドニファンを体を張って助けたことにより和解するのではなく、銃撃戦の窮地を救った場面に変えられている。
・銃撃戦の要約
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1)日暮れ時海岸にたどり着いたドニファンたち4人の集団は、浜に打ちあがっているボートを見つける、たき火のあとから誰かが少し前に上陸しているのを把握した。その直後ドニファンに向けて狙撃されるがそれた。 |
2)敵5人の狙撃に対して応戦。ドニファンの拳銃で1人倒し、銃1丁を鹵獲する。銃声に気づいたブリアンたちが現場へ急ぐ。 |
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3)ドニファンの拳銃の弾が残り6発しかなく、敵に囲まれた。彼単身でおびき寄せて倒す作戦に移す。武器は短剣1本。 |
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4)残った仲間の銃撃戦で敵1人倒す。ドニファンは背後から敵の首領にとびかかり格闘。 |
5)力の差で短剣を奪われる。仲間が銃で応戦しようとしたところ弾切れ万事休す。その時ファン(犬)がとびかかり形勢逆転。 |
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6)現場にたどり着いたモコが弓矢で敵1人倒す。逃げようとした敵の首領を追いついたブリアンが狙撃して倒す。 |
7)ブリアンの行動にドニファンは感動し、ブリアンたちのところへ駆け寄ろうとしたときに残った敵1人に狙撃され右肩を負傷する。 |
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8)ブリアンとモコは手当、その際、ドニファンはこれまでの無礼を詫びた。残りの仲間は制圧に入り成功する。 |
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5)その他
時間の経過を、裾、襟などの被服の傷みで表現している。