子供時代を振り返っていると、世界名作劇場をよく見たなと思う。それも、高校時代の昭和61年まで。一般にこのアニメ番組は日曜日の19時30分に全国ネット放映が基本。当時、長崎では当時民放2局NHK総合・教育のみ。
放映した民放局KTNテレビ長崎は、1週遅れの18時から放映。世界名作劇場を見て、そのままサザエさんと日曜夕方のアニメタイムという編成であった。(※平成3年10月に民放4局体制になり、19時30分に放映が移動した)
この時間帯には親がどうしてもみたいテレビ番組がなかったので、チャンネル権でもめることもなかった記憶がある。長崎でも19時30分ならば、よほどおもしろい内容を投入しないと苦戦したと思われる。民放4局体制になった時代には見ていなかった。このアニメ番組がフジテレビの地上放送では平成9年に終了は知っていたが、現在は別の放送(BSフジ)で復活していることも今回の記事を書く時点で初めて知った。これも多チャンネル化の恩恵の賜か。
チャンネル権はもうとっくに死語に違いないが、一家に一台、ビデオデッキが高嶺の花でとても手に出せない時代には、どこの番組を見るかの争いになった記憶が。兄弟げんかも派手にやった記憶がある。
《赤毛のアン》は個人的に秀逸だと思う。原著では、アンのその後の話が続いていく(残念ながら私も赤毛のアンの原著は読んだがその後は読んでいない)。新版世界名作劇場でぜひ作ってもらいたいものだ。うまく作れば、再び地上波でも楽しめる期待がある。
前置きは長くなったが、赤毛のアンの次に実に興味深く見ていたのが、《アルプス物語 わたしのアンネット》(昭和58年)(あのハイジではない)である。テーマが宗教と、今までの名作劇場にはない《主人公の弟が崖から転落》というサスペンス劇場でよく見る転落シーンが鮮烈なインパクトを与え記憶から離れない。当時放映されていたNTV《火曜サスペンス劇場》のテーマ曲をだぶらせてしまったほどだ。
■小説版 アルプス物語 わたしのアンネット(竹書房 平成16年11月初版)
ISBN4-8124-1840-2
※楽天ブックスで購入
主人公アンネットと、事実上の主役、ボーイフレンドのルシエンの確執などという話の展開は記憶不確かになってしまっている。中学生だった私が25年以上たってもこの場面は、俳優松田優作がNTV《太陽にほえろ!》でのジーパン刑事殉職シーン同様、繰り返すが離れない。
ファンサイト、Wikiなどの資料を見ると、視聴率はふるわなかったとある。これは当時校内暴力、学校内のいじめが熾烈になった時代に、やられた側には共感を持った作品ではと私は今でも考える。
事実上の主人公ルシエンが取り返しのつかない事件を起こし(ほぼ回復不可能に近い状況までたたき落とされている)、疎外感と孤独感を否が応でも余すことなく味わった、いわば奈落の底にのたうち回るその仕草が、視聴率では推し量れない隠れたファンがいると言えよう。
原典が英国の作家パトリシア=セント=ジョン氏が昭和25年に発表したキリスト教の宗教観を前面に出した《Treasures of Snow(雪のたから)》を元にしていることはファンに取っては既知の事実。いのちのことば社から平成8年に新版として発行された、邦訳の入手は地方都市では困難で、キリスト教教会・施設が多数ある長崎市でもキリスト教関連書店に赴いたが残念ながら品切れ取り寄せであった。
知人からこの本を借りて読んだことがあるが、宗教の違いとはこのようなものかとはっきり感じ取れた。決して信心深くない仏教徒である私にとっては、宗教が根底にある道徳観がどのようなものあるかだけは読みとれた。欧米人と真っ当に渡り合うにはまずこの見方から理解すべきかと思うほどである。
アニメでは原典の《罪と赦し》を土台に、《友情》というテーマが強調されている。困難に直面したらどのように復元してくのかという、一つの解が示されている。端的に言えば、復元不可能にまで冷え込んだアンネットへの関係復元一大プロジェクトの軌跡と言えようか。
あるファンサイトでは子供に見せたい番組とあるが、この意見には賛成である。ただし、何でも子供に悪いとBPO、テレビ制作者側に言いたい放題のクレームをだす輩に、主人公弟の崖からの転落場面だけをことさら取り上げ、《子供に悪い》《犯罪を助長する》等から放映中止にしろという苦情があがり、今では制作または地上波での再放送ができないことが十分に予想できる。
最後に、写真で取り上げた小説版の感想。一言で表すとイマイチ。小説の展開は興味深いが、表現にもう一工夫欲しかった。だが、中学生時代の記憶を振り返るには実によいきっかけにはなった。ファンには悪いが書かせてもらおう。
この続編は日刊NANZO特別編でお送り致しますので、ご参照ください。